社長、それは忘れて下さい!?

4-6. Courage approach


 予定していた店舗の視察を終え、社長専用車に乗り込んでからしばらくした頃、涼花は隣に座った龍悟がやけに静かな事に気が付いた。

 ふと視線を向けると、背中を背面シートに預けて腕を組んでいるのはいつもと変わらないが、首ががくりと落ちている。

「……社長?」

 スケジュールをチェックしていた手を止めて顔を覗き込むと、龍悟は目を閉じて静かな寝息を立てていた。

(寝てる……)

 通りで静かなはずだ。普段の龍悟なら視察で見てきた状況を擦り合わせたり、逆にそれとはあまり関係のない世間話をすることが多い。いつもの会話もなく静かに眠る龍悟の様子を見た涼花は、運転手の黒木にそっと声をかけた。

「黒木さん。今日の予定は全て終えましたので、少しだけゆっくり走って貰えますか?」

 ルームミラー越しに黒木と目が合う。涼花は黒木からは見えない位置で眠っている龍悟をちらりと見ると、再びルームミラーの中に視線を戻した。

「その……社長、寝てるんです」
「おや、珍しいですね」

 声量を抑えて伝えると、同じく声量を落とした黒木が不思議そうな顔をする。

 黒木は涼花よりも龍悟との付き合いが長く、龍悟がグラン・ルーナの社長に就任して以来ずっと社長専用車の専属運転手を務めている。居眠りをする龍悟の様子は涼花にも珍しいが、黒木にとっても十分珍しいものらしい。
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