社長、それは忘れて下さい!?

「お疲れのようなので、このままあと少し寝かせてあげたいんですが……」
「構いませんよ。今日はご自宅への送迎予定もないでしょう? 私もこれで終わりですから」
「ありがとうございます」

 黒木に礼を述べてスケジュールを確認すると、確かに今日の龍悟は自家用車で出勤して、自家用車で帰宅することになっている。

 指示があれば秘書が社長専用車を手配して自宅まで送迎をお願いすることもあるが、朝予定が変わったり業務後に車を使えない事情が出来た場合は、龍悟が自ら社長専用車を手配することもある。

 その場合は、涼花や旭を通さずスケジュール管理ソフトにも予定は反映されないので、ここに書かれている情報が全てという訳でもない。だが黒木が違うと言うならば、龍悟は今日も愛車を運転して帰宅するのだろう。

「秋野さんは優しいですね」

 感心したように言われて、涼花はルームミラーの中に小さく苦笑いを浮かべた。黒木は涼花の気遣いを褒めたが、心の中ではそれはどうかと考える。

 涼花が本当に優しい人なら、もっと龍悟を大切にできる筈だ。いつまでも龍悟の優しさに甘えていないで、ちゃんと自分の言葉で自分の気持ちを伝えることが出来ると思う。

 だから涼花が本当に優しい人になれるかどうかは、自分次第だ。
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