社長、それは忘れて下さい!?

「これはもう……お店ですよね?」

 涼花が感動して呟くと、龍悟は『そうか?』と笑顔を浮かべる。しばしワイン選びに悩んでいた龍悟も、ようやく今日の一本を決めたようだった。グラスと一緒に運んできたボトルは、涼花が知らないラベルだ。絶対高いワインだと分かったので値段はあえて聞かないことにする。とんでもない値段を言われたら、料理の味がわからなくなってしまいそうだ。

「料理の組み合わせはかなり変だけどな」

 苦笑する龍悟の台詞には涼花も同意する。メインのローストビーフのソースは和風。シーザーサラダはメキシコ料理で、テリーヌと鱈のソテーはフランス料理、ミネストローネはイタリア料理で、ワインの産地はアメリカだ。確かにこんな組み合わせは、店のコースにはない品書きだろう。

「デザートもあるぞ。チョコレートケーキか、プリンか、アイスクリーム。全部でもいいけどな」
「だめですよ。そんなに食べたら絶対太ります」

 涼花が口を尖らせると、龍悟も楽しそうに笑い出した。

 二人揃って食卓に着くと龍悟がワインの入ったグラスを持ち上げる。

「乾杯。今日もご苦労さん」
「ありがとうございます……いただききます」

 龍悟の言葉に礼を述べる。お店のコースと違って料理は最初から全てテーブルに並べられているし、ここには龍悟と涼花の二人しかいないので細かい作法は要求されない。美味しい食事とワインを前にしても面倒な手順やルールを気にしなくて良いことが、涼花にはとても気楽で心地よかった。
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