社長、それは忘れて下さい!?

「あの男は何も知らないままだ。涼花がどんな顔で達くのかも、どんな声で啼くのかも……」
「ちょっ……、と! ……何言ってるんですか!?」

 慰められたのかと思ったが、どうやら違ったらしい。嫉妬というほど明確な感情ではないが、涼花の『初めての男』に遭遇して、少しばかり面白くないと感じたようだ。

「お前の全てを知ってるのは、この世で俺だけ。俺しか知らない……そうだろ?」

 憮然とした態度で言われ、うう……と言葉に詰まる。現実として涼花には龍悟以外の男性とも経験がある。だが、相手がその行為の一切を記憶していない以上、地球上に涼花の全てを知っているのは龍悟だけということになる。

 だから否定の言葉など出る筈もない。素直に認めるのもかなり恥ずかしかったが、何とか頷くと機嫌が戻った龍悟にそのまま唇を重ねられた。

 恥ずかしい心地で口付けに応えると、離れた龍悟がふっと笑顔を浮かべた。指先が耳元に触れると、意図せずピクリと身体が反応する。けれど龍悟はその反応まで楽しむように、さらに耳や髪に指を絡ませた。

「他の男に傷付けられた事なんか、もう二度と考えなくていい」
「……はい」

 この人はどうして、こんなに心を掴まえるのが上手いのだろう。
 黒い龍の双眸に捉えられれば、勝つことと逃げることは出来ないのだと本能的に悟ってしまう。あるのは敗北のみ。ただ心を奪われて、なすがままに身を任せることしかできない。

 けれど、それでいい。

 龍悟は涼花を傷付けない。むしろいつだって心の隙間を埋めるように浸潤し、何かの魔法のように涼花の傷口を癒していくことを知っている。

 龍悟の方が、よほどファンタジーだ。不思議なことに、もう先輩の顔も、何を言われたのかも、思い出せない。

「涼花……」
「……ん。……っ」

 記憶力はいいはずなのに、再び名前を呼ばれて唇を重ねられると、思い出そうとしていた行動そのものまで何処かへ飛んで行ってしまう。聖なる神龍のような瞳に射止められ、愛おしさと畏れを抱いたまま口付けに応じる。

 何かのスイッチが入ったらしい龍悟は、口角を上げると自分のネクタイの結び目に指をかけた。

「そうだな……。涼花にも、俺の事をもっと知ってもらおうか」

 あっという間に中身が無くなった涼花の脳内に、龍悟は新しい知識と経験を植え付けると高らかに宣言した。


  ―――Fin*
< 222 / 222 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:93

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

幼なじみの過保護愛 -星のかけらは純愛のしるし-

総文字数/31,994

恋愛(純愛)47ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
会社勤めの池田咲は、高校時代、部活中に幼なじみの本庄光希が蹴ったボールが当たって目に怪我を負った。以来、責任を感じた光希から過保護に守られる日々を送っている。 傍にいてくれることが嬉しい。 ただの『幼なじみ』以上の関係になりたい。 ――でも自己犠牲はしてほしくない。 秘めた気持ちを伝えられず『幼なじみ』という微妙な距離感を保っていた二人だが、ある日同僚から『本庄くんに連絡先を渡してほしい』と頼まれ、さらに同期の男性社員から『池田と二人きりで過ごしたい』と誘われる。 恋心に揺れ動く咲の感情に気づいたとき、光希がとった行動は―― ◆ 設定はすべてフィクションです。実際の人物・企業・団体には一切関係ございません ◆ 表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しています ◆ エブリスタにも投稿しています
御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

総文字数/212,637

恋愛(純愛)329ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
*Story* 秋月 美果が勤務する 『天ケ瀬百貨店東京』には、 本社の営業本部長・天ケ瀬 翔が ときどき視察に訪れる。 完璧な御曹司である翔を 遠い存在だと感じていた美果だったが、 別の勤務先に翔がやってきた際に、 偶然 彼の『裏の顔』を知ってしまう。 トラブルに巻き込まれたくないと 翔を避ける美果だったが、 とある事情から美果が お金を稼ぎたがっていることを知ると、 翔から突然『俺の専属家政婦になれ』と 雇用契約を持ちかけられて――? ―――――*――――― 百貨店経営グループ本社 営業本部長 御曹司 天ケ瀬 翔 31歳 Amagase Sho × 3つの仕事を掛け持ちする苦労人 秋月 美果 25歳 Akizuki Mika ―――――*――――― *開始 : 2024.10.23.* *完結 : 2024.11.20.* ◇ 設定はすべてフィクションです。実際の人物・企業・団体には一切関係ございません ◇ アルファポリス・ムーンライトノベルズ・エブリスタにも掲載しています
表紙を見る 表紙を閉じる
 ある日突然、父と血縁関係がないことが発覚した社長令嬢の絢子。母の不義を理由にわけも分からぬまま家を追い出された絢子だったが、行くあてもなく夜風にさらされていたところを婚約者の玲良に発見されて捕獲される。  しかし社長である父に勘当された以上、絢子と玲良の婚約は白紙になるだろう――そう思っていたのに、絢子はなぜか玲良の一族が経営する豪華なホテルのスイートルームに囲われ甘やかされることに。 「婚約は絶対に解消しない。――俺から逃げられると思うな」 父に絶縁された元・社長令嬢 桜城 絢子(22) *Ayako Sakuragi* × 獅子堂財閥グループ御曹司 獅子堂 玲良(28) *Akira Shishido* もともと政略結婚で、今となってはそれすら叶わなくなった。なのに初恋の彼の視線と指先には、甘美で熱い温度が込められていて――…… * 2023/11/20 連載開始 * * 2023/11/26 完結 * ꒰ঌ.*・伊桜らな さま・*.໒꒱ 素敵なレビューを ありがとうございます…♡ とっても嬉しいです…°˖✧

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop