スパダリ外交官からの攫われ婚
「え? でもお父さん、この旅館は今とても経営が厳しいって……」
そう継母から事は聞かされ、見合いを受ける覚悟を決めたのだ。旅館の経営者である琴の父がその話を知らないのはあまりにもおかしかった。
もしかして加瀬が何か知っているのではないかと彼を見るが、加瀬はしらっとした顔をして音羽夫妻の様子を眺めているだけだ。
「何を言ってるんだ、琴? 旅館の経営は好調だし、今度別館を立てるか考えているくらいで……」
経営者である父が言うのならば本当なのだろう。二人の会話を聞いた継母はガタガタと震え、准一と彼の姉は騙されたことを知って怒りで真っ赤になっている。
「どういうことですか、美菜さん?」
旅館への援助だと信じていた准一とその姉が美菜に詰め寄ると、彼女は「違うの、違うのよ」と繰り返し後ろに下がる。しかしそんな彼女に加瀬がとどめを刺すような言葉を口にした。
「援助なんて言いながら、彼女はその金を自分のものにするつもりだったんだろ? 琴の存在を上手く利用してな」
「……そのために、私を?」