スパダリ外交官からの攫われ婚
少人数で歌う讃美歌も、聖書の朗読も自分たちのために行われている。大好きな父がここにいない事だけが少し残念だが、琴は今までにないくらい胸をときめかせていた。
続いて始まった誓約に加瀬は迷うことなく「誓います」と応え、少し迷った後に琴も「誓います」と応えた。
いつの間に用意したのか琴の薬指にぴったりの結婚指輪が彼女の指にはめられる。洒落たデザインの大きなダイヤの指輪は決して安いものではないのがパッと見ただけでも分かる。
小さな声で加瀬が……
「急いで用意したんだ、文句は言うなよ?」
と囁いたが、とんでもないと琴は思ってしまう。
自分のためにここまでしてくれる加瀬に感謝の気持ちでいっぱいで、攫ってくれたのが彼で良かったと思えるようになっていた。
今度は琴が真剣に加瀬の薬指に結婚指輪をはめていく、そんな美しい花嫁の様子を加瀬が満足そうに見てるとは知らずに。
「それでは誓いのキスを」
牧師がそう言うと、それまでは落ち着いていた琴の身体がピシリと固まってしまった。