Don't let me go, Prince!


 ボディソープを泡立てて、弥生さんの背中を丁寧に洗っていく。彼の傷痕が私の作った泡で見えなくなる。
 弥生さんは気にしているようだけど、私は貴方の傷痕を醜いだなんて思った事はないのよ。
 むしろこの傷痕を見れるほど、貴方にとって特別な存在になれたのは嬉しい事。

 シャワーのコックを捻ってお湯の温度を確認してから、弥生さんの背中の泡を流す。流し終えると、もう一度そっと傷痕のある背中に手を添える。

「私、弥生さんの広い背中が大好きよ。この傷痕も貴方がどれだけ家族に対して愛情深い人なのかを表わしているモノだと思うもの。」

 一つ、二つと傷痕をなぞって消えてくれるわけじゃない。だけれど私はこうして傷に触れる事だって平気なんだと弥生さんに分かって欲しい。

「渚……」

「はい、背中は綺麗になったわよ。他の場所は……自分で、ね。」

 スポンジを手渡して私は弥生さんから一度離れようとする。すると弥生さんの大きな手が私の手首を捕まえる。

「……今度は、私に渚の背中を流させてください。」

「ええっ?私が弥生さんに……背中を洗ってもらうの?」

 私が弥生さんを洗う分にはまだ大丈夫だったけれど、自分が洗われる方の立場になると恥ずかしい。そんな綺麗な背中をしてる自信ないわよ。

「さあ、渚はココに座ってください。なんだか新婚夫婦のようでいいですね。」

「ちょっと待って、弥生さん。きゃあっ……!」

 弥生さんに引っ張られて、流した泡で足を滑らせて弥生さんの裸の胸に飛び込む形になる。予想しなかった出来事に驚きで心臓がバクバクと音を立てる。

「渚、大丈夫ですか?」

弥生さんの素肌の感触にもドキドキしてしまい、このままでは頭がどうにかなってしまいそうよ。


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