Don't let me go, Prince!


「渚が、私の背中を……大丈夫ですか?」

 弥生さんは私の言葉に驚いている様子。大丈夫ですかって、私はそんなに背中を流すのが下手そうに見えるのかしら?

「大丈夫よ。小さい頃は毎日お父さんの背中を流していたし、渚は洗うのが上手だって褒めてもらっていたわ。」

「いえ、そういう意味ではなく……渚は私の背中を見ても大丈夫ですかと聞いたのです。」

 弥生さんの言葉でやっと意味を理解する。弥生さんはまだ私に傷痕を近くで見られることに戸惑っているのだろう。

「夫の背中ですもの、私は平気よ。でも弥生さんが近くで見られるのが嫌だというのなら無理にとは言わないわ。」

 私は彼のために出来る事をと考えたけれど、弥生さんが嫌がる事をしたい訳じゃない。少しでもリラックスしてもらえればとは思うけど、逆効果では意味が無いのよ。

「いいえ、渚が嫌でなければお願いします。それに、渚が背中を流していたのは父親だというのを聞いてホッとしました。他の男性だとしたら嫉妬で気が狂ってしまいそうですから。」

「過去の事にでも妬いてしまうのは私だけじゃなく弥生さんもなの?」

 弥生さんがヤキモチを妬いてくれたことは嬉しかったりする。
 弥生さんはきちんと言葉にもしてくれたけれど、やっぱり彼にどれだけ愛されてるかを実感できる瞬間がたまらなく幸せ。

「私はとても嫉妬深い夫かも知れません。過去も現在も……今日は渚に触れた神無にも嫉妬しました。私はどんな男も渚に触れて欲しくないのです。」

 私の旦那様は本当に愛おしい、こんなにも私の事だけを見てくれる。嫉妬も束縛も嬉しいなんて私もどうかしてるわよね。

「私も触れたいのも触れて欲しいのも弥生さんだけよ。さあ、私に貴方の背中を流させて?」

 弥生さんの後ろにしゃがんで、彼の背中に触れてそっと撫でる。緊張からか彼の身体がびくりと揺れるけれど、気にしない。


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