Don't let me go, Prince!


 彼は私のステージが終わるまで見ていた。本当はずっと具合が悪かったのでしょうに。

「妖精かと、思ったんです。貴女が出て来た時、驚いて……どうしても目が離せなかったんです。不快な思いをさせてしまっていたのならすみません。」

「妖精って、私が?……貴方の眼鏡、度数あってる?」

 確かに私が来ているのは淡い色のワンピースだけど、それでも妖精だなんて。本気で言っているのかしら、この人?

「眼鏡は伊達なので……視力に問題はありません。」

 そう言って男性はゆっくりと眼鏡を外す。眼鏡を外したこの人の顔は、とても綺麗だった。これは女の人がほっとかないでしょうね。

「私は貴方の方が綺麗だと思うけどね。ふふふ、妖精ね。初めて言われたわ。」

「私も、初めてこんな事を言いました。」

「ねえ、貴方って……『灘川渚さん。今すぐステージ裏に来てください、繰り返します……』」

 放送で名前を呼ばれて、彼に聞きたいことを忘れてしまった。早く戻らなかったから実行委員がイライラしているのだろう。

「私、行かなくっちゃ。貴方はここでゆっくり休んでから帰るのよ?」

「ええ、そうします。水、ありがとうございました。」

 彼の言葉を聞いて安心して、私は走り出した。ステージにはミスコンの参加者が並んでいて私も急いでその中に入る。
 優勝者の発表が終わって、もう一度校舎裏にいったけれどそこに彼はもういなかった。

「連絡先……聞けばよかったな。でも、また会えるよね。」

 名前も知らない彼だけれど、いつかまたきっと会える。私はそんな気がしていた。


    ― 番外編? 終 ―


< 130 / 198 >

この作品をシェア

pagetop