Don't let me go, Prince!
手を伸ばせば触れるほど近い距離にいるのに、私はまだ弥生さんに触れたことはない。そして弥生さんが私に触れようとしたことも、一度もない。
弥生さんの大きな手に触れてみたい、あなたの温度が知りたい……そんな風に思うのは私だけなの?
「……渚さん、具合でも悪いのですか?」
「え?いえ、大丈夫です。ちょっと考え事をしていました。」
私は弥生さんの事ばかり考えていて、ボーっとしてしまっていたらしい。目の前にはもう料理が並べられていた。
創作イタリアンのお店らしく、並んでいるお料理はどれもオシャレ。
「それならばいいのですが、もし体調が悪かったりしたら言ってください。」
「本当に大丈夫ですから……それより食べましょう?とっても美味しそうだわ。」
私がそう言うと弥生さんは安心したように食事を始める。
……弥生さんはいつも表情を変えないけれど、とても私の事を気にしてくれてるわ。いまはそれだけでも、良いじゃない。
自分の中で焦るのは止めようと思った。きっと弥生さんは恋愛もゆっくりする人なんだろうと、私は勝手に思い込んでいたから。
「渚さん、このあと少し私に付き合ってもらえませんか?帰りはきちんと家まで送りますから。」
「え、この後ですか?それは別に構わないですけど。」
焦らないと決めたばかりなのに、心臓がドキドキドキといつもより大きな音を立てているみたい。弥生さんが気になってる私は「もしかしたら」って、色々期待しちゃうの。
「それじゃあ、親御さんには少し遅くなると連絡しておいてください。」
「……はい。」
私は急いで母に「ちょっと帰りは遅くなるから」とメッセージを送った。