Don't let me go, Prince!


 理由が分からず自分を探られるのはあまりいい気分はしない。私は先に男性が名乗らなければ、こっちが名前を教える気が無いとはっきり意思表示をした。
 そんな私の様子をジッと見ていた彼は、私の反応に嬉しそうに微笑む。いったいこの人は何を考えているの?

「いいね、お姉さんの言う通りだ。僕の名前は【けい】だよ。君になら呼び捨てで呼んでもらっても構わない。」

「けいさんね。私は四ツ谷 渚。初対面だし、《《さん付け》》で呼んでもらって構わないわ。」

「ふはっ、渚ちゃんって旦那さんにもそんな可愛くない態度なの?それとも軽く声を掛けた僕を警戒してる?」

 何がそんなに楽しいんだか……けいさんは、私が喋るたびに大げさに反応をして見せる。
 私が弥生さんに対しても可愛くない態度を取っているかって?もしかしたら弥生さんも彼みたいに私の事を可愛くないって思っているかもしれないって事?

 ちょっと心配になってしまう。私は元々気が強いから可愛いなんて言われたこと何て殆どないのよ。

「渚ちゃんは旦那さんの事だとそんな不安そうな顔するんだ。愛されてるんだねえ、旦那さん。」

 けいさんは私と弥生さんの夫婦関係にやたらと興味を示す。よく知りもしない家庭の夫婦関係などを聞き出して何が楽しいのだろうか?
 彼は絶対にナンパなんかじゃない。笑っていない瞳の奥で彼は何を考えているのだろう?

「私が旦那様をどう思っていようと、けいさんには関係ない話よね。アナタに心配しなくても私たちの夫婦関係は良好よ。」

 そう、彼は今日私たちの関係をもっといいものに進めるために行動するのだと言っていた。たった数日で私たちの関係は前よりもずっと近くなった。もう、彼の指先に触れる事も出来ない関係じゃない。

「それは何よりだね。渚ちゃんが旦那さんにベタ惚れなのはよく分かったよ。僕ばかりが質問してるね、渚ちゃんは僕に何か聞きたいことは無いの?」


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