Don't let me go, Prince!



「……好物?どの料理が弥生さんの好物だったの?」

「全て、ですね。渚の作ってくれたチキンのクリーム煮もホテルのポトフやミルクのジェラートは私の好物だと、昔からいるスタッフは知っています。渚には旗本(はたもと)さんというスタッフの女性が傍に居たのでしょう?」

 今日お世話になった女性の従業員の名前を当てられてこっちの方が驚いてしまう。どうしてそんなことまで分かってしまうの?

「彼女が一緒に弥生さんをびっくりさせましょうって……」

 ついつい白状してしまう。だって弥生さんは疑っているんじゃなくて、確信を持って私に聞いて来てるんだもの。

「旗本さんらしい。彼女は昔からサプライズが大好きなんですよ。記念日は食事が好物ばかりだったり。今日は……渚が私に料理を作ってくれた記念日でしょうか?」

 そんな記念日あるのかしら?でも彼女だったらそんな事でも記念日にしてしまいそうな感じはある。

「お屋敷では毎日作ってたのだけど……」

「すみません、知ってはいたのですが……あの屋敷では私は食事が出来ないんです。食べても全て吐いてしまう。」

 ああ……問題は私が作る事や、料理の内容では無かったのね。確かに彼があの屋敷の中で食事をしている姿をほとんど見た覚えがない。
 屋敷にいる間は出かけるのが早くて、帰ってくるのも遅かった。弥生さんはあの屋敷にいることが苦痛だった?

「弥生さん、もしかして……」

「話は後にして、食事をしましょう?せっかく渚が作ってくれた料理が冷めてしまいます。」

 弥生さんは私の肩を軽く叩いて、自分も席について食事を再開した。

「渚の作ってくれた料理はとても美味しいです。また作ってくれますか?」

「ええ。」

 彼は私の作った料理を綺麗に食べて、次も食べると約束してくれたのだった。

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