Don't let me go, Prince!


 ベッドに下ろされて覆いかぶさろうとする弥生さんを手で押し返す。この行為が嫌な訳じゃないけれど、私には少し心配なことがあって……

「ちょ、ちょっと待ってよ。弥生さん!」

 私が弥生さんを止めると、彼はちょっと悲しそうな顔で私の顔を見る。今私が止めたことで彼に誤解させてしまった事の心が痛む。

「やはり、渚も嫌になりましたか?私に触れられるのは。」

 そうじゃない、私が止めた理由はそういう事じゃないのよ。離れてしまいそうな彼の腕を掴んで私の方にそっと引き寄せる。

「触れられるのが嫌な訳じゃないわ。でも弥生さん、昨日もあまり眠っていないでしょう?今日はちゃんと体を休めて欲しいの。」

 昨日私が眠った後で彼は寝ているはずなのに、朝にはもう起きて準備も終わらせていた。きっと短い時間しか眠っていないはず。

「私の身体の事なら心配いりませんよ?私は体力には自信があるんです。」

「そうかもしれないけれど、私が心配だから……妻に心配をかける夫は悪いとは思わない?」

 私がそう返すと弥生さんは困ったような顔をして、私の上からコロンと横に転がってしまう。そんな彼の行動が可愛くて笑ってしまいそうになるわ。

「分かりました、今日は渚の言う通りにします。ですが……お預けをくらった分、次は手加減してあげませんからね?」

 当然の権利だと言わんばかりの彼の言葉に、私は顔を紅潮させるしかなくなる。

「て、手加減してくれたことなんて無いじゃない!」

 そうよ、私が頼んだのに昨日だってあんなに……そう思いだしてまた赤くなる私の姿を、弥生さんが楽しそうに見ていた事には私は余裕が無くて気付いていなかった。

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