フォンダンショコラな恋人
「先生って……」
「陽平」
淡々と訂正される。

「……陽平さんって、私といろいろしたいんですね?ご飯を食べたり資料を整理したり、花火を見たり」
「そうだが」

──そうだったのか。
好きだから一緒に食事をしたくて、好きだから一緒に花火を見たい。

翠咲のことが好きだったのなら、それは極自然な行動なのだ。

「ほんっとに、分かりづらい」
理由が分かれば、それほど明快なこともなかった。
くすくすと翠咲は笑う。

「翠咲」
「なんですか?」

倉橋が階段に足をかけて、翠咲の方に手を伸ばす。
手を握れ、ということなのだろう。

今だって、その表情は以前と変わらず無表情に近いけれど、それでも雰囲気は少しだけ柔らかい。

もしかしたら、それは翠咲だけが分かることなのかもしれなかった。

伸ばされたその手を翠咲も素直に握った。
温かくて、ひどくどきりとした。
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