フォンダンショコラな恋人
ふわりと席を立った翠咲はカウンターに向かい、大将にお水をお願いする。

そのまま奥のお手洗いに行って、カウンターに寄ろうとしたところ、視界にスーツが入ってきた。

俯きがちだった翠咲には、磨き上げられたその綺麗な靴が目に入る。
ぶつかるといけないと思い、横に避けようとしたら靴も同じ方向に動いた。

「あ……すみませ……」
顔を上げたところ、件の弁護士が無表情に、翠咲を見下ろしていたのだ。

「宝条さん、でした? 僕、そんなに感じ悪いですか?」
酔いも一気に冷める心地だ。

「ちなみに僕、吹いたくらいじゃ折れませんから」
笑うでもなく怒るでもない淡々とした表情が逆に怖い。

ど、どこから?
どこから聞かれていたのだろうか?
ていうか、いつからいたのだろうか?

「別件で別の席にいたんですけど、同席の方がここに知り合いがいると言うので、端の方に紛れさせて頂いていたんですが」

確かに途中からは翠咲も話に夢中になっていたし、結構酔っていたので、周りは見えていなかったと思う。
そもそも、宴席自体が広いのだし。
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