フォンダンショコラな恋人
「うん、気に入った。彼女も気に言ってくれたようだし。買うよ」

ポンと決めてしまうところも陽平らしくて、翠咲は笑ってしまう。

即決に営業担当者は一瞬ポカンとして、それから嬉しそうになって、
「ありがとうございます!」
とペコリと頭を下げたのだった。

そうしてやってきたのが次の週末だ。

「翠咲、ネクタイ曲がってないか?おかしくない? 紺のスーツって地味だろうか?いや、でも黒ではちょっと……」
「陽平さん、大丈夫だから。ちゃんと素敵だよ」

このやりとりは朝から数回は繰り返されている。

その都度、翠咲は大丈夫だと繰り返すのだけれど、また陽平は大丈夫だろうか、と翠咲に聞くのだ。

こんな陽平の姿は見たことがなくて、翠咲もくすくす笑ってしまった。

「彼女の家に行くのも、こんな挨拶も初めてなんだからな。緊張するよ。お前みたいなやつに翠咲はやらんと言われたら、どうしようかと思うと夜しか寝れない」

「夜充分寝てるじゃない。夜寝てれば充分だから。面白いこと言ってないで、行くわよ」
「ん……」
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