フォンダンショコラな恋人
あしらったつもりはないのだが、そのように取られていたのかと思うと、倉橋は本当に自分は上手くないと苦い気持ちになる。

「確かうちの顧問弁護士は、事務所はそれほど大きくはないんですが、腕利きを揃えていると聞いています。ふうん、そうなんですね」

「すーっごおく冷たくって、表情も全然変わんないの無表情よ? んで、資料出せ資料出せって、もー、あんな案件終わりにしたいのよ、こっちだって。でも……疑義があるのに折れるのは絶対イヤ!」

なにせ本人が背後にいるとも思っていないので、どんどん会話は進んでいく。

すっごぉく冷たくって、と言う宝条は少し酔っているのか、いつもよりも舌っ足らずだし、いつものシャキシャキした雰囲気とは全く違って倉橋は自分を悪く言われているはずなのに腹は立たなかった。

倉橋は目の前にあったビールを軽くあおる。
やけに苦いような気がした。

腹は立たない。
……立たないけど、そんな風に言わなくてもいいのにと残念に思っただけだ。

いつもそうなのだ。
自分は悪い感情を持っていないのに、相手には嫌われる。

倉橋も軽くため息をついたが二人の会話も途切れた。
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