主人と好きな人。


電車に揺られ5つ目の駅で電車を降りた。
電車の中ではずっと龍之介とラインのやり取りをしていた。

『ゆかさん今日のご飯はなあに?』

『今日は主人が居ないからカレーかな』

『カレー!!いいな!バイトじゃなかったら食べに行ったのに』

『残念だったね!彼女に怒られるよ?』

『彼女がいたらゆかさんナンパしたりしないよ!』

他愛もないラインが続く。
1人の人とこんなにラインを続けるなんて久しぶりだ。
寂しさを埋めるように龍之介からのラインを待った。

連絡を取っているうちに龍之介の事がわかるようになってきた。
立川龍之介 2月11日生まれ 22歳。
大学生 教育学部 将来の夢 小学校の先生
好きなスポーツ サッカー
彼女なし 一人っ子 19歳の時に両親を交通事故で亡くす
不憫に思ったバイト先のオーナーが夕食を食べされてくれたりする

『好きな女の子のタイプは?』

『ゆかさん!』


「・・・・・・・・・・・・・。」

ラインの返信が止まる。
好きな女の子のタイプを聞いたのに自分の名前が出てくると思わなかった。
でも冗談だとわかっているから軽めに返信をした。
『わかったわかった。』

食べ終わった夕食の片付けをしてシャワーを浴びる。
シャワーの途中脱衣所から少し長めのバイブレーションが聞こえた。
会社からの電話かな。
まだ濡れている手先をタオルで拭きスマホの画面を見た。

『龍之介』

慌ててラインの着信を押しスピーカーへ返る。

「も、もしもーし!」

「ねぇー何がわかったわかったなのー?」

「ん?何が?」

「好きなタイプゆかさんってゆったのー何がわかったわかったなのー?」

「え。あぁ、冗談でしょ?」


髪の毛から滴る水滴をタオルで拭きながらスマホに向かって話す。


「冗談じゃないよ?」

「へ?」

「冗談で言わないでしょ!」


髪の毛を拭いている手が止まった。
私達話し出して2日目だよ?なんなら昨日は話してるうちに入らない。
冗談だとしても久しぶりにドキドキしてしまって返事に困る。


「ゆかさん?聞こえてる?」

「え、あ、ごめんごめん。」


慌てて返事をした時、玄関の鍵が回る音がした。
「ただいま」と聞きなれた声がする。

「ごめん龍之介!主人帰ってきたから・・・」

「え、あぁじゃあまたLINEする。」

「うん!」

慌てて龍之介からの電話を切り再び髪の毛を拭きだした。


「なんか今男の声しなかった?」

「してないよ。」


健次からの問いかけにさっきとは違う意味でドキドキしながら答える。
何もやましいことしてないのに。
悪い事をしている気分になった。

「ふーん。」


なにか怪しんだ顔をした健次があたしの真横を通り過ぎた時
嗅ぎなれていない香水の匂いがした。

きっと健次には女がいる。

やましい事をしているわけではないけど、自分の罪が軽くなったようなきがした。



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