主人と好きな人。
龍之介。

「・・・・・・・・・・・。」


自然と目が細くなる。睨むようにスマホを見ていると男の子が声をかけてきた。


「電話だよ?取らないの?」

「・・・・・・・・・・取るよ。」


指で「スライドで応答」と表示されている所をなぞった。


「・・・・・・・・・・・・・。」

「あ・・・・・ゆか?俺。」

「・・・・・・・・はい。」


電話先から聞きなれた相手の声がする。
まだ頭にきていることを敢えて隠さないように
声のトーンを下げた。


「今日もさ、遅くなるから夕食はいらな・・・」

「北川さーん♡今日どこでディナー食べるんですかぁ?」


健次の声がかき消されるように女の猫なで声が聞こえた。
ゾワッと体中の鳥肌がたった。
『その女は誰?』そんな一言も出てこないぐらいの衝撃。
あの人は今日、どこで誰と食事をとるんだろう。


「・・・・・・・・・・・・・。」

「ゆか?聞こえてる?」

「聞こえてる。わかった。」

「じゃ・・・・。とりあえずいらないから。」


健次からの着信が切れプーップーと機械音が流れる。
あたしはそのままスマホの電源ボタンは1度押した。


「会社の人?」

「んーん?主人から。」


男の子がのぞき込むようにあたしの目を見る。


「旦那さんか!」


そのまま男の子は自分のスマホをすごい速さで操作する。
あたしは何も考えたくなくて男の子のスマホ画面をボーっとみていた。


「はい!これQR」


男の子があたしに白黒の四角の画像を見せてくる。


「QR?」

「友達検索でこれ読み込んで!俺出てくるから。」


あたしはスマホを操作し友達検索で画像を読み込んだ。


「りゅうのすけ・・・?」

「うん!俺!立川龍之介!」


ニッコリと男の子が微笑み八重歯を見せる。
健次がありがとうってオムレツを食べていたら赤い口紅を塗ることなんてなかった。
健次の夕食の断りの電話が申し訳なさそうならこの男の子に話しかけられても適当に相手をしてた。




あたしがいつもの朝を迎えていたらラインの交換なんかしなかった。





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