(仮)愛人契約はじめました
社食を出て、みんなで研究棟前の自動販売機に向かった。
「れんれん、お土産、なんでセンベイなの~?
私、佐々木さんちの通りのチキン南蛮丼がよかった~」
「だから、佐々木さんち、何処なんですか……」
と紗江と揉めながら蓮太郎は少し前を歩いている。
笑いながら聞いていると、蓮太郎が少しずつ歩くスピードを落とし、唯由の横に並んできた。
なんか照れるな、と俯くと、蓮太郎が言ってくる。
「愛人。
辞書で引いたら、愛している相手、特別な関係にある人って意味だった」
「そ、そうなんですか……」
「愛している相手か。
そう考えれば、愛人になれと言い続けていた俺は、ずっとお前に告白していたかのようだな」
そう言い笑った顔が好きだと思った。
王様なくせに、時折、ちょっと恥じらうように笑うところが……。
蓮太郎はそんな唯由を見て微笑み、ちょっと屈んで、キスしてきた。
「あっ、なにやってんのよっ、そこっ。
もうっ、絶滅危惧種までラブラブになる宿、キャンセル出たら、すぐ私にも教えなさいよ~っ」
前の方で美菜が叫ぶ。
みんなが笑う声が夏になりはじめの空に響いた――。
完