辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

 領主館の玄関ホールで、ドリスの呼びかけに混じって若い男の呼び声がしたのが聞こえて、マリアンネは澄ました様子で振り返った。そちらを振り向いたドリスがホッとしたような表情を浮かべる。玄関ホールの左側の廊下からは、上下深緑色の軍服を身に着けた大きな男が歩いてくるのが見えた。侍女からの知らせを聞いて急遽降りてきたセシリオだ。

「どうしてここに?」
「どうして? 来ると伝えていたではありませんか。それに、お父様から仕事のお手紙を預かっていますのよ? あ、お父様はフィリップ殿下と謁見の予定が入ってしまったので少し遅れてこちらに来るそうです」

 眉間に皺を寄せ訝しむセシリオに対し、マリアンネは胸元から扇子を取り出すと口元を隠してウフフっと笑う。

 それは断ったはずだ、と言いかけて、セシリオはぐっと言葉に詰まった。最後に受け取った手紙の時期を考えると、王都からこちらに移動してきたマリアンネがそれを見たとは思えない。それに、ブラウナー侯爵の仕事の手紙を預かっているならば、表向きはブラウナー侯爵家からの正式な使者だ。遠路はるばる来たところを追い返すわけにもいかない。
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