辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

「セシリオ様だわっ」

 屋敷の左側の空間に行くことのないサリーシャが昼間にセシリオの姿を見かけることは滅多にない。なんだか無性に嬉しくなって、サリーシャは部屋を飛び出した。


 ***


 マリアンネが本当にここアハマスに来るとは、セシリオにとって誤算だった。
 表向きは父親から仕事の話──国境警備に使用する武器や火薬などの購入に関する手紙を預かって届けに来たと言っていた。しかし、手紙など、郵便業を営む専門業者かそのための使者に託すのが普通だ。それに、数日後にブラウナー侯爵本人が来るのであれば、マリアンネがわざわざ先に来たこの来訪に、別の目的があるのは明らかだった。

「本当に来たのかよ。すげーな。ある意味、その(つら)の皮の厚さに畏敬の念すら湧いたよ」

 マリアンネが乗った馬車を止める位置などを指示して屋敷に戻ろうとすると、セシリオを追いかけるようにちょうど屋敷から出てきたモーリスが、呆れたような顔で立っていた。
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