辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

「まあ、あなたが。初めまして、モーリス様。サリーシャ=マオーニですわ。母君のクラーラにもお世話になっております」
「初めまして。モーリス=オーバンです。以後よろしく」

 モーリスがサリーシャの右手をとり、軽くキスをする。馴れ馴れしく触るなとその手を叩き落としたい衝動に駆られたが、そこはぐっと(こら)えた。静かに見守っていると、モーリスはチラリとセシリオの方を向いて、ニヤリと笑ったような気がした。

「こんな辺境までようこそ、お嬢様。こいつは今、鬼神のごとき恐ろしい顔をしてますが、これはあなたが突然現れたことへの照れと、あなたと仲良く喋る俺への嫉妬心を燃やしているだけなので怖がらないでやって下さいね」
「怖くなどありません。閣下はいつもお優しいですわ」

 サリーシャはキョトンとした顔で、少し首をかしげた。そして、ふふっと照れたように笑う。
 殺人的な愛らしさである。数々の修羅場をくぐり抜けたセシリオですら、一撃で致命傷を負って白旗を上げそうになり、慌てて気を引き締めた。無理に顔の緩みを是正しようしたため、益々眉間に皺が寄った。

「ほう? これはこれは。へぇ、ふーん……。じゃあ、俺は戻るよ。お二人はごゆっくりどうぞ」
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