辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

 部屋の中にいるのはセシリオとブラウナー侯爵のようだった。話す内容からして、仕事の話をしているのだろう。これは出直した方がよさそうだと踵を返そうとしたとき、サリーシャは咄嗟に耳を澄ました。自分の名前が出てきたのが聞こえたのだ。

「サリーシャ嬢のことですが、わたしは賛成しかねますね。彼女は長らくフィリップ殿下と親しくしていた。実は愛人だったのではと疑っています」

 サリーシャは我が耳を疑った。確かにサリーシャはフィリップ殿下と一番親しい異性だった。しかし、その関係は友人の域を出たことはなく、断じてそのような男女の関係になったことはなかった。

「憶測でものを言われては困ります。彼女とフィリップ殿下はそのような関係ではないはずだ」

 セシリオがそれを否定する声が聞こえた。奥のソファーで話しているのか、だいぶ声が遠い。サリーシャはもっとよく聞き取ろうと、部屋のドアに耳を押し当てた。

「しかしですね、先日も『争いは止めればいい』などと頓珍漢(とんちんかん)なことを言い出すし、アハマス辺境伯夫人としての素質に欠けるとしか思えない」
「アハマス辺境伯夫人が好戦的な性格では、争いが絶えなくなりむしろ素質に欠ける。彼女はあれでいいのです」
「それはそうかもしれませんがね、うちのマリアンネは小さなころからアハマス卿と付き合いがあっただけあり、その辺のところがよく分かっているのですよ。サリーシャ嬢より、よっぽどアハマス辺境伯夫人としての適性があり、相応しい。それに、我がブラウナー侯爵家はアハマスにとってなくてはならない存在でしょう?」
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