辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 アハマスが戦後疲弊していた時期に婚約者として自分を支えてくれるどころか、我儘ばかりだった娘がアハマス辺境伯夫人にふさわしい? 挙げ句の果てに実家にとんぼ返りした娘を叱るどころか、一緒になって婚約破棄をしたのはどこのどいつだと、セシリオは強い嫌悪感を覚えた。
 少なくとも、セシリオはあの時、ブラウナー侯爵家から『アハマス辺境伯家には婚姻を結ぶほどの利用価値なし』と見切りを付けられたと感じた。

「それにですよ、彼女は背中に醜い傷跡があるはずです。いくら美しいとは言え、アハマス卿の妻には相応しくない。辺境伯夫人ともあろう者が傷物など──」
「ブラウナー侯爵」

 セシリオは必死に理性で怒りを抑えながら、低い声で言った。もう限界だと思った。どれだけサリーシャを貶める発言をすれば気が済むのか。この男にサリーシャの背中の傷を『醜い』などと言われるのは、我慢ならない。

「あなたの言うとおり、本当に見るに堪えない醜い傷があるのならば俺の妻には適さないのかもしれない。だが、彼女に醜い傷などない。だから、なにも問題はない」

 セシリオはそう言うと、不愉快げに眉をひそめた。

「それに、あなたはサリーシャのことよりもご自分の娘を心配された方がいい。夜遅くに婚約者でもない男の元に何度も下着と見紛うような薄着で訪ねてくるなど、淫乱な女だと噂が立っても文句は言えない行動だ。はっきり言わせて頂くと、非常に迷惑している」
「なっ、なんですとっ!」
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