辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
「そうなの? なら、ちょうどいいわ。あなたは誰でも虜にできるのね? それなら、セシリオ様はわたくしに譲って下さいませ」
サリーシャは驚愕で目を見開いた。なぜこんな飛躍した提案に至るのか、意味がわからない。
「なにを仰っているのです?」
「だって、考えてもみて? 今、侯爵位以上の爵位を持ち、独身でわたくしと歳の釣り合いもとれる方はセシリオ様しかいらっしゃらないの。つまり、わたくしにはセシリオ様しかいないのよ。あなたは平民上がりなのだから、男爵でも子爵でも、何でもいいでしょう?」
それを聞いた時、ぞくりと寒気がした。マリアンネはさも名案を思い付いたように、笑顔で目を輝かせている。本気でそう思っていることが、サリーシャにも分かった。
かつて自分からセシリオの婚約者の地位を放棄したというのに、どうやったらこんなにも独りよがりになれるものなのだろうか。サリーシャはマリアンネの狂気ともとれる言動に恐怖を感じ、ぶるりと体を震わせた。
「わたくし、失礼させて頂きます」
一刻も早くこの場を立ち去りたい。読んでいた本を抱きしめてマリアンネの横をすり抜けようとすると、マリアンネがニコリ笑う。
「お父様にも協力して下さるように、お願いしておくわ。だって、あなたはわたくしの幸せに邪魔なの」
歌うようにそう言ったマリアンネから逃げるように、サリーシャはその場を後にした。