辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

「閣下?」

 呼び掛けたが返事はなかった。
 多くの馬の嘶く声で、厩舎の中は少々騒がしい。入り口から見た限りではセシリオは見えなかったが、サリーシャはデオの元に行ってみた。
 長旅から帰ってきたばかりのデオは、まるでずっとそこにいたかのように手入れが行き届いていた。焦げ茶色の毛並みは艶やかで、汚れ一つない。きっと、セシリオが綺麗に世話したのだろう。
 デオはこんもりと盛られた干し草をむしゃむしゃと頬張っていたが、サリーシャに気付くと片耳をピンと立てて動きを止めた。

「あら、食事の邪魔をするつもりはなかったのよ。きっと、セシリオ様はさっき来たばかりね?」 

 尻尾をぶんと振ったデオはその質問に答えるように鼻をブルルと鳴らすと、また干し草を頬張り始める。

「ねえ、デオ。またセシリオ様と相乗りさせてね?」

 前回はマリアンネと出掛けた後だったので時間がなくて、あまりデオには乗れなかった。次は少し遠出してみたい。その日のことを想像しながらサリーシャは口元を綻ばせた。そうしてしばらくその様子を眺めていたが、おずおずと立ち上がると、セシリオを探しに今度は訓練場に向かった。
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