辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 そうこうするうちに、セシリオはもう二十八歳だ。さすがに三十前には結婚しないとまずいと、周りが色々とお膳立てしようと画策したが、本人は一度目の婚約で懲りたのか、どこ吹く風で全く興味がない様子だった。

 そのセシリオに変化が見られたのはつい三ヶ月ほど前のこと。
 王都で起きた、王太子殿下の婚約披露パーティーでの襲撃事件の報告が王都から届いたころだった。その事件に対してやけに興味を示したセシリオに対し、モーリスを始めとする周囲の人間は特に不審にも思わなかった。セシリオはフィリップ殿下と遠い親戚にあたるし、フィリップ殿下が幼いころから顔を合わせれば剣を教えたりする仲だったからだ。

 セシリオはなぜかフィリップ殿下とその婚約者を庇って大けがをしたサリーシャ=マオーニに対し、興味を示し、追加で情報を集めるように指示を出した。
 このころから何かがおかしいと周りも薄々気づき始めた。そして、サリーシャが酷い大怪我のせいで貰い手がなく、下位貴族へ嫁ぐことを快く思わないマオーニ伯爵の意向もあり、六十歳過ぎのスカチーニ伯爵の後妻に収まることになったらしいと報告したあたりで、それは確信へと変わった。セシリオが、スカチーニ伯爵との婚姻話を潰して自分がサリーシャを迎えたいと言い出したのだから、周囲はもうびっくり仰天だ。

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