辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

「かしこまりました」

 サリーシャが頷くと、セシリオはまわりを見渡し、近くにいた男性を呼び寄せた。以前、マオーニ伯爵邸にセシリオが訪れた時に同行していた白髪交じりの中年の男性だ。

「ドリスだ。この屋敷のことを取り仕切っている。わからないことがあれば、俺かドリスに聞いてくれ。あとは、こちらで手配した、きみ付きの侍女に聞いてくれても構わない。ああ、もちろん──」
「ノーラですわ」

 セシリオの視線がサリーシャの後ろに控えるノーラの方をチラリと見たのに気づき、サリーシャは補足した。

「失礼。ノーラはこのままきみ付きの侍女として働いてくれて構わない。正式に婚姻したらきみの部屋は俺の部屋の隣になるが、今は客間を用意した。案内しよう」

 右側の方にゆっくりと歩き始めたセシリオに付いて、サリーシャも足を進める。途中にいくつも扉があり、入り口側からは見えなかったが、中庭があるのも廊下の窓から見えた。サリーシャは興味深げにきょろきょろと辺りを見渡す。

「疲れているなら、屋敷の散策は明日にでもゆっくりすればいい。晩餐は一緒に?」
「はい。ご一緒させていただきます」
「わかった。ここだ」

< 45 / 354 >

この作品をシェア

pagetop