政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
「えっと、王子様ってどういうことかな?」

 我に返って尋ねれば女の子、千波は満面の笑みで言った。

「千波と結婚してほしいのー」

 さらりと結婚してほしいと言う千波に面食らう。

 おそらく千波は見たところ、四歳から五歳。なにか絵本やテレビに影響されて言ったのかもしれない。

 純粋な夢を壊したくないところだけど、できもしない約束はするべきではない。

「千波は本当に俺と結婚してもいいの? だって出会ったばかりで俺の名前も知らないでしょ? 結婚って好きな人同士がするものだよ」

出来るだけ傷つけないように言葉を選ぶ。

「千波のお父さんお母さんだって、好きだから結婚したと思うんだけど」

 だから出会って間もない俺に結婚を求婚するべきじゃないと強く言いたい気持ちを必死に抑え、笑顔を取り繕う。

 その甲斐あってか千波は目をぱちぱちさせた。

「じゃあまずは、お兄ちゃんの名前を教えて! 名前を知らないと好きになれないもんね」

 理解してくれたと胸を撫で下ろしたのも束の間、どうやら千波はまだ諦めていないようだ。

 がっくりと肩を落とした俺の膝に両手を置いて、千波は「教えてよ」とせがむ。
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