政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
 ベンチから降りると千波は「航君、またね」なんて言って去っていく。

 咄嗟に追いかけようとして立ち上がったものの、すぐに思いとどまる。だって追いかけたってどうするつもりだった?

 四歳の女の子が言った言葉を鵜呑みにして、どこの会社の令嬢なのかを調べる? もしかしたら父に言えば、簡単に千波と婚約することができるかもしれない。

 だけどそれじゃだめな気がする。千波は俺をひとりの人間として見てくれた。でも大きくなって庵野グループのひとり息子だと知っても、変わらずに俺に接してくれる?

 そうしてくれるという自信がないから不安になる。だったら変に期待しないほうがいい。

 何度も自分に言い聞かせて俺もパーティー会場に戻った。

 千波と出会ってからというもの、あれほど乗り気じゃなかったパーティーに、喜んでついていった。

 もしかしたら千波とまた会えるかもしれない。毎回期待して行ったが、あれ以降会うことはなかった。

 この先も会うことができると安易に考えて、名字や父親がどんな仕事をしているのかを聞いておかなかった自分を悔やんだ。

 それに会えないほどに千波のことを考える時間は増えていき、ふとした瞬間に自分に向けられた笑顔を思い出しては胸を苦しくさせた。
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