政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
「なに、これ」

 ゆっくりと膝を折り、床に流れる血に触れるとまだ生温かい。紛れもなく航君が流れている血だ。
 彼は固く目を瞑り、声をかけても反応がない。

「やだ、航君しっかりして。誰か……! すみません、誰か助けてください!」

 逃げまどう人に声をかけても、誰も答えてくれない。

 どうしたらいいの? ううん、私にできることなんてない。早く救急車を呼ばないと。

 震える手でバッグの中からスマホを取り出したものの、スマホが血に染まり恐怖に襲われる。

 このまま航君が目を覚まさないってことはないよね?

 頭の中が真っ白になって、心は恐怖に支配されていく。

「警備員さん、刺したのはあの人です!」

「全員で取り押さえろ! それとすぐに救急車を呼んでくれ」

「今呼びました! すぐに来てくれるそうです!」

 私たちの周りで繰り広げられる出来事が、まるでスクリーンに映し出されているかのように見える。

「あなたは怪我していませんか? 大丈夫ですか?」

 声をかけてくれた人は警備員で、心配そうに私を見つめている。

 そんな警備員の腕を掴んだ。

「お願いします、航君を助けてください」

「大丈夫ですよ、すぐに救急車がきますから。あなたも血がついているじゃないですか、どこを怪我したんですか?」

 ううん、私はどこも怪我していない。だって航君が守ってくれたから。……でもそのせいで航君は……っ!

 不安と恐怖に押しつぶされ、目の前が真っ暗になる。

「大丈夫ですかっ!?」

 床の冷たさを感じながら私はゆっくりと意識を手放した。
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