政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
「庵野さんはこれまで一度も、心から愛した人と結婚したいと思ったことはないんですか?」

 私の質問に庵野さんは目を見開いた。そして、ゆっくりと口を開く。

「俺は……」

 彼がなにかを言いかけた時、ドアの向こうの廊下から大きな足音が聞こえてきた。それは真っ直ぐにこちらに向かってくる。

 私も庵野さんも自然と目を向けると、勢いよくドアが開いた。

「すみません、失礼します」

 そう言って焦った様子で部屋に入ってきたのは、近くで待っていると言っていた伯父だった。

 そして唖然とする私に向かって伯父は、早口で言った。

「さっき、病院から瑠璃が急変したと連絡があった」

「えっ」

 瑠璃が急変? 急変って……様態が悪くなったってことだよね?

 突然の知らせに頭の中が真っ白になる。

「かなり危険な状態らしい。説明があるからすぐに病院に来てほしいそうだ」

 危険な状態ってなに? だって瑠璃、昨日会いに行った時はいつもと変わらない笑顔で出迎えてくれて、他愛ない話をして笑っていた。

 それで「また明日ね」って言って手を振ってくれた。それなのに……。

 心臓が苦しくて、うまく呼吸ができなくなる。
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