政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
「千波?」

 伯父は心配そうに膝を追って私の様子を窺う。

 瑠璃になにかあったらどうしよう。まさかこのまま永遠に会えなくなるなんてことはないよね? またあの可愛い笑顔で『お姉ちゃん』って呼んでくれるよね?

 必死に自分に言い聞かせても、恐怖の波が押し寄せてくる。

 なにも答えることができず、手の震えが止まらなくなる中、庵野さんが急に立ち上がった。

「しっかりするんだ」

 彼は力強い声で言いながら私の前で腰を下ろし、私の両肩を掴んだ。

「キミが妹さんのことを信じないでどうするんだ。気をたしかに持って早く病院へ行こう」

 さっきまであんなに不安で怖くて仕方がなかったのに、庵野さんの言葉が胸の奥深くに響く。

 そうだ、母が亡くなり、父がいない今は瑠璃には私しかいない。それなのに私がこんな弱気になっていてどうするの?

次第に手の震えは止まる。すると庵野さんは立ち上がり、私に手を差し伸べた。

「ほら、立って」

 彼と会うのは今日が初めてのはずなのに、なぜか以前に会ったことがあるような気がする。

 それに遠い記憶の中に、こうして誰かに手を差し伸べられたことがある気もする。それが誰なのかわからないのに、どうして彼と重なってしまうのだろう。

 その答えは出ないまま彼の手を取った。
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