政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
「先ほど瑠璃さんに、補助人工心臓を装着しました。……以前お話した通り、もう残された道は心臓移植しかありません」

 病院に到着後、医師から言われた言葉に大きなショックを受けた。

「日本臓器移植ネットワークに、レシピエント登録はすでにしていますが、正直、国内での脳死移植の少なさを考えると、すぐに順番が回ってくることはほとんどないと思います。たとえ回ってきたとしても、適合しないことには移植はできません」

 それは事前に何度も医師から受けていた説明だった。だけど心のどこかで、瑠璃は移植をしなくても元気になるんじゃないか、本当は心臓に疾患などないんじゃないかとさえ思っていた。
 ううん、私がそう思いたかったのかもしれない。

「海外での移植を考えられる患者さんもいらっしゃいます。……とにかく時間があまりありません。今一度、ご家族でよく話し合ってください」

 伯父が医師にいくつか質問していたけれど、私の耳には届かなかった。いつの間にか説明が終わり、私はおぼつかない足取りで集中治療室へ向かった。

 中には入ることができず、ガラス越しにベッドに横たわる璃々を見つめた。腹部近くのパジャマのボタンとボタンの間の隙間から見えたのは、補助人工心臓。真っ赤に渦巻く血液が見えるポンプだ。あれが今、瑠璃の命を繋ぎとめてくれている。
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