政略懐妊~赤ちゃんを宿す、エリート御曹司の甘く淫らな愛し方~
「瑠璃……」

 毎日笑顔で前向きに生きてさえいれば、どんな困難も乗り越えられる。きっといつか今のつらい気持ちや苦しみ、悲しみが報われる日がくると信じてきた。でもそんな日は永遠にこないのかもしれない。

 母が亡くなり、父は行方不明。一生働いても返せないほどの借金を抱えながら瑠璃に治療を受けさせるなんて無理な話だったんだ。

 国内での移植では間に合わないなら、海外での移植を考えるしかない。でもそうなると多額の費用が必要となる。

 伯父は家で連絡を待つ伯母に電話をかけにいったけれど、きっと伯父も私と同じことを考えていると思う。

 瑠璃を助けたいのに、助けることができない。ただ、国内でのドナーが現れる奇跡を待つしかないと。

「ごめんね、瑠璃」

 謝罪の言葉とともに、涙が零れ落ちた。

 たったひとりの妹を助けることもできない、不甲斐ないお姉ちゃんでごめん。今はただ、瑠璃の生命力と奇跡を願うしか方法がなくて本当にごめんなさい。

 涙を止める術を失い、次から次へと溢れる。瑠璃が涙で霞み、ゴシゴシと拭っていると、その手を横から掴まれた。
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