私は天使に侵されている
草野はかなり溜まっていたのか、ぶちまけるように健悟に言ったのだ。

「それで、美麗ちゃん泣いてたのか……」
「それも卑怯よ!泣いて来夢様の気を引くなんて!」

「そうかなぁ。
美麗ちゃんはそんな風に、涙を武器みたいにする人間じゃないと思う。
それなら、とっくに来夢に“草野さんに別れろって言われたの。でも私、別れたくないの!来夢、助けて!”とか言うんじゃねぇの?
むしろ、内緒とか言って隠してたじゃん!
だから来夢が俺に聞いてこいって言ったんだし」
健悟はあくまで冷静に草野に言った。

「それは……」
「それにさ!」
「え?」
健悟の目が鋭くなり、草野を見据えた。

「卑怯ってのは、お前等のことじゃね?」
「え……?」
「さっき俺に言ってたこと、来夢自身に直接言えばよくね?どうせ来夢に言えないから、美麗ちゃんに当たったんだろ?
それこそ“卑怯”じゃん!」
「………」

「ほら、言い返せない。
…………はぁー、令子もだけど女ってなんでそうなの?なんで、本人にぶつからないの?
しかも、自分より弱い人間にしか言わない。
現に、お前等も令子には何も言えなかったもんな。
アイツ、気の強い女だったから」
「………」
ため息をつき更に続ける健悟。
草野達はただ俯き、肩を落としていた。

「俺、知らないから!
俺も美麗ちゃんのこと気に入ってるから、今の聞いてて結構ムカついてるし」
「え……健悟さん?」



「お前等はね………
触れてはならない、来夢の“逆鱗”に触れちゃったんだよ」

健悟の言葉が、賑やかな公園に冷たく響いた。
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