冷徹社長はかりそめ妻を甘く攻め落とす
「……なんだそりゃ。初めて見る顔だぞ、瀬川」
桐生さんのその言葉で、瀬川さんがどんな顔をしているのか見たくてたまらなくなったが、こちらからはなにも見えない。
〝フッ〟と笑みを落とした声を最後に、桐生さんはやがてその場を立ち去っていった。
張り詰めた空気から一気に解放された気がしてホッと息をつくが、周囲の視線が怖くなって肩が内側に縮こまる。
私はやっぱり場違いなんだ。私なんかが瀬川さんの奧さんだなんて、弱みでも握っていなければあり得っこないと思われているのだろう。
自覚はしていたものの、実際に他人に言われると気分は一気に沈んでいく。
「あ、瀬川社長!」
「社長ー」
今度は女性のふたり組が、片手に赤ワインのグラスを持って近づいてきた。
左の女性はパールホワイトのワンピースに黒のジャケットを羽織り、綺麗な茶髪をゆるく巻き上げている。右の女性はショートカットで、華奢な体にフィットしたブルーのレースワンピースを着ている。
どちらも息を飲むほど美しく、私はぼんやりとした自分のワンピースはいったい何色なのかよくわからなくなった。