猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~
「あの……お風呂と服、ありがとうございました……」

「いえいえ。温まりましたか?」

「はい……」

お店に着いてすぐ、お風呂場に連れて行かれた。

変な事されたらどうしよう、とちょっと不安になったけど、なんかもうどうでも良くて、寒かったし言われるがままにお風呂に入らせてもらった。

それに、このおじさんはそんな事をしないだろう、と言う変な確信があった。

なんでかは分からないけど。

服も下着もびしょびしょだったから、乾燥にかけて貰っている間、シャツとズボンを借りて着た。

「こちらへどうぞ」

おじさんは4席ほどあるカウンターの一つの椅子を引いて手招きをしてくれた。

「あ、はい……」

カタン……と腰を下ろすと、フワッと甘い香りが鼻をついた。

「ミルクティーはお好きですか?」

「は、はい」

「それは良かった」

私の返事に満足した様で、丸眼鏡の奥で目を細めて笑った。

キッチンに戻って行くおじさんを目で追う。

さっきはよくよく見てなかったから分からなかったけど、おじさんは凄く整った顔立ちをしていた。

腰まである長い髪を後ろで一つに縛り、金縁の丸眼鏡をかけている。背がスラッと高く、白いシャツと細身のジーンズがよく似合っていた。

手際よく紅茶を淹れる所作をボーッと眺めていると、不意に目が合い、慌てて俯いた。

「……どうぞ」

目の前に、ミルクティーが淹ったカップが置かれる。

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