猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~
そのカップから漂う紅茶とミルクの優しい香りが、すさんだ心に少しばかり癒しをくれた。

「美味しそう……」

「温かい内にどうぞ」

「あ、はい」

いただきます、とお辞儀をして一口飲んだ。

紅茶の渋味がミルクでまろやかになっていて、飲みやすい。

かと言って紅茶本来の風味が無くなった訳ではなく、ミルクと調和されていて、とても――、

「美味しい……」

ボソッと呟く。

「それは良かった」

おじさんが優しく微笑む。

ミルクティーの温かさと甘さ、笑顔の優しさがじんわりと心に広がって行く。

なんだか妙に切なくなって、ポロポロッ……と、涙が零れた。

一度流れ始めた涙は、待ってました!と言わんばかりに後から後から零れ落ち、ポタポタとミルクティーの表面に波紋を作る。

……悔しい。

泣きたくなんかないのに。

「ニャーン……」

さっきの子猫が、カップに添えている私の手に擦り寄って来る。

雨で濡れていた体はすっかり乾き、ふわふわと温かい。

おじさんがそっとハンカチを差し出してくれて、

「……今度はハンカチで大丈夫そうですか?」

と、言った。

< 7 / 106 >

この作品をシェア

pagetop