猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~
楓が上着を着て家を出た頃。

私はmilk teaの前に辿り着いていた。

勢いで出て来てしまったけど、緊張でなかなかお店に入る事が出来ない。

「う~ん。どうしよう……。てか、なんでカーテン閉まってるの?」

今日は定休日じゃないのにおかしい。休憩時間にカーテンをぴっちり閉めていた事なんてないのにどうしたんだろう。

とりあえず中の様子を確認しようと入り口に近付くと、ドアには見慣れない張り紙が貼ってあった。

「臨時休業……?」

と、大きな字で殴り書きの様に書かれている。

(じゃあ二階の自宅にいるかな?)

そーっと、一応の確認でドアの隙間から中を覗く。

「いた……」

カウンター席に項垂れて座っている三毛さんの姿。目の前には昨日壊れた写真立てがバラバラの状態で置かれていている。どうやらまだ修理をしていないみたいだ。

(多分だけど新しいのに買い替えた方が良い気がするな。それより……)

私は項垂れている三毛さんの姿を見てちょっと驚いた。

いつもキチンとした格好をしているのに、昨日私と別れた時と同じ格好をしている。髪は乱れ、シャツの裾がだらしなくズボンから出ていて、テーブルには昨日私が使っていたカップがそのまま置かれていた。

(昨日のまま……?)

だとすると、あれから三毛さんは片付けもせずにここから動かないで夜を過ごしたんだろうか?

そんな事を考えながら三毛さんの悲しそうな背中を見ていたら、怒りに任せて来た勢いがスーッと引いて行く。

(どうしよう……)

と、入ろうかこのまま帰ろうか悩んでいたら奥の方から誰かが出てきた。

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