関係に名前を付けたがらない私たち
6章

*緊張の夏、別れの夏

 いよいよ日本列島は梅雨が明け、本格的な夏が到来した。

 最近、お客さんたちの話題が何だかとっても暗い。
 聞くところによると失業率が過去最高だそうだ。就職出来ない若者たちを就職浪人と呼ぶそうで、世の中の景気はすこぶる悪いらしい。
 けれど新しい総理大臣が打ち出したナンチャラ改革とやらで、世間は期待半分、諦め半分、見守っている。みたいな話を、お客さんに説明された。

 でも私は、日本のこれからよりも、自分のこれからのほうが身近に迫った危機だった。
 難しいことはとりあえず偉い人に任せておくとして、私は自分の恋愛をどうにかしなければならないのだ。

 外ではうるさいほどの蝉の大合唱、照り付ける真夏の太陽が素肌を容赦なく焼き付ける。
 以前はここぞとばかりに肌を焼いていたのに、相変わらずの美白ブームに私はせっせと日焼け止めを塗り込んでいた。

「色白は七難隠すって本当かよ。黒いほうが粗が隠れて絶対にいいのに」ブツブツ独り言を口にしながら。

 そんな夏の昼下がり、突然耕平から別れを切り出された。

「……は?」

 耕平が用意してくれた素麺を食べようとまさに割り箸に手を伸ばしたときだった。いきなり「別れよう」と前置きなく言われ、私は箸を持ったまま脳が停止していた。

「あいぼん、決められないだろ? だから俺から別れたほうがいいのかなって」

「なにその気遣い」

「そりゃ気遣うでしょ。あいぼんが悩んでんだから」

「何で悩んでるって知ってるの」
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