あの日溺れた海は、


「えーっと、部室の鍵、部室の鍵~…と。…あれえ、ないなあ。」


棚の扉を開けるとじゃらじゃらと音を立てて鍵たちが揺れた。その中を指をさしながら先生はそう呟いた。


「もしかしたら、他の先生が使っているのかもねえ。一度、部室に行ってみたらどうかな?」


わたしたち文芸部員以外に滅多に使われることがないという部室の鍵がないというのにおじいちゃんは驚くほど呑気な調子でそういうと、すたすたとまたゆっくりとお弁当の元へと帰ってしまった。

わたしは誰が使っているのだろうかと不思議に思いながら、職員室を後にして部室へ向かった。






部室の前へたどり着くと、扉は閉まっていて電気はついていなかった。とはいえ、日が出ているうちは電気をつけなくても支障はないから、中に誰かいてもつけていないことも多かった。
人の気配は…明確には感じられない。


「失礼します…誰かいらっしゃいますか?」


念のため、中に人がいる体でそう声を掛けた。しかし返事は返ってこなかった。
誰もいないのか、もしくは部室の鍵をなぜか持っていた人とすれ違いになってしまったのかと考えながら、部室の扉に手を掛けて力を入れた。


すれ違いになっているのなら鍵がかかっているかもしれないな、と思っていたがその線はないらしい。扉はいとも簡単に開いた。

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