あの日溺れた海は、
それなのに部室には誰もいなかった。
鍵が開けっ放し?いったい誰が?
考えても納得のいく答えの出ないこの現状に少し恐怖を覚えつつも、わたしは自分の机に向かうと原稿用紙を探し始めた。
1段目の引き出しを開けてみても、ない。
2段目の引き出しも…ない。
滅多に開けることのない3段目だって、あるわけない。
机の下も念のため覗いてみても…やっぱりない。
一通り確認するとふう、と深いため息をついた。
そりゃ。一度は探した場所だもん。ある方がおかしいんだ。
気を取り直して今度は部室の隅にある棚の中を漁り始めた。
ない。…あ!これ!…は去年書いてボツになったやつ。
これは月のだし。
これは…何この絵?
部員の誰かが書いたであろう不細工なパンダの絵にわたしはふふっ、とこの緊迫している状況の中で思わず噴き出した。
と、その瞬間後ろの方で物音がした。気がした。手に持っている不細工なパンダに夢中ではっきりと聞こえたわけじゃないけど、少し間を置いてからゆっくりと振り返った。
しかしそこには入ってきた時と同じ机と椅子と、扉があるだけで、何かが落ちてきたわけでもなく倒れたわけでもなさそうだった。
勘違いだったんだ、思い直してわたしは再び原稿の捜索を続けた。