あの日溺れた海は、
「…で、結局見つからなかった、と。」
「はい…。」
次の日の放課後、珍しく会いに来たわたしに月は満面の笑みを浮かべてスキップをしながらわたしのところへ寄ってきた。
そんな月とは対照的にわたしは深刻な面持ちで打ち明けた。
「あらら。」
いつもは底抜けの明るさで周りを照らすほどの月でも、わたしの話を聞くなり気まずそうに苦笑いをうかべた。
そんな月の表情に事の重大さを再確認し深くため息をついた。
「そもそもなんで華はいつも原稿用紙に書いてるの?どうせあとでパソコンに移すんだったらノートとか、最近はスマホでも書けるのに。」
「なんとなく。雰囲気出るから。」
そうつんけんとしながら言うわたしに、「華ってそういうところ不思議だよね。」と月は返した。
「…もう次からスマホで書こうかな。」
そうぼそりと呟くわたしに、月は笑いながら「そうしな、そうしな。」と言って伸びをした。
「んでさ、おじいちゃんには言ったの?」
伸びをしてんん、と息をついてそう言う月の言葉にわたしは首を横に振った。
月はまたああ、とぎこちない笑みを浮かべると「まあ、おじいちゃんは優しいし、大丈夫だよ。」とフォローを入れた。
怒られることは全く心配していないけれど、わたしは月に話を合わせて「明日部活があるから、その時に言ってみる。」と返した。