あの日溺れた海は、

予鈴が鳴って席に着くと、ふうとため息をついた。


どっちにしろあんな写真を撮られていた時点で姫乃を傷つけてしまうことは避けられなかった。


いくら修学旅行の時に亮からわたしのことが好きだと遠回しに伝えられてたとしても、クラス中の視線が集まる中あんなストレートに伝えられたら…。


亮の馬鹿さに助けられることはたくさんあったけど、その馬鹿さ加減が悪い方に働いてしまった。


それにしても、今までの亮らしくない。

安易に人を傷つけるようなことは今まで一度足りとも聞いたことなかったのに。


複雑な心境で亮の背中を見つめるとHRの始まりを告げる本鈴が鳴った。

それと同時におじいちゃんが教室内に入ってくる。その後にドアがガラガラと音がして人が入ってくる気配がした。


その気配に胸が破裂しそうなくらい高鳴る。見なくたってわかる。藤堂先生だ。


先生がわたしに視線を送ってないことなんかわかってるでしょ、と言い聞かせても、背中が熱くて、痛くて、ここからいなくなりたかった。


こんなにつらい気持ちになるなら、いっそ好きにならなければよかった。
あの時にきちんと諦めていればよかった。


そう願っても時すでに遅し。


でも、だったら、今のわたしにできることって何だろう。


今のわたしがやるべきことってなんだろう。


わたしにはもう小説を書くことしかできないんだ。


今のわたしにできること。


今のこの気持ちを作品にして昇華させること。


そう思ったらいてもたってもいられなくて、帰りのHRが終わった瞬間に部室へ駆け出した。
< 325 / 361 >

この作品をシェア

pagetop