エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 中学、高校へと進学した俺は成績も申し分なく、友人にも恵まれそれなりに充実した学生生活を送っていた。

 けれど、将来の進路についてはいまいち希望をはっきりさせていない。両親は考えを押しつけてはこないが、どことなく父親は自分と同じ道に進んでほしそうではあった。

 逆に周りからは『お父さんみたいな弁護士になるんだろ?』『父親と同じ弁護士になったらいいじゃないか』とよく声をかけられた。

 相手はそこまで深く考えていないんだろうが、最初なら決めつけられている感じがして微妙な年頃だったのもあり妙に反発した。俺はどうしたいのか。

 そんなある日、川内家に用事があり訪れると、あからさまに日奈乃が落ち込んでいた。事情を聞けば、あらぬ疑いをかけられクラスでギクシャクしているらしい。

 両親には心配を掛けたくないので相談できないと。それを受け俺なりに考え、日奈乃を励ましながら精いっぱいアドバイスする。

 すると事態は解決に向かいそうで、ようやく落ち込んでいた日奈乃に笑顔が戻った。

『稀一くん、すごい! 困った人を助けるなんて弁護士さんみたい。私のこと信じて守ってくれるんだもん』

 純粋な彼女の言葉に心が揺さぶられる。

 ああ、そうか。本当は心のどこかで弁護士の仕事に興味はあった。けれど、それを父親の影響だと一言で片付けられるのが癪だったんだ。

 自分なりに困っている人を助けたい。専門知識で誰かの役に立ちたいという気持ちがはっきりとある。

 それを日奈乃との件で自覚できた。彼女が気づかせてくれたんだ。なにより日奈乃が俺の力で笑ってくれて嬉しかった。

 この日を境に俺は弁護士を目指して歩きだしたのだ。
< 104 / 120 >

この作品をシェア

pagetop