エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 日奈乃は気にしていないかもしれないが、従兄とはいえ相手は男だ。みすみす行かせるわけにはいかない。

『ひなは、うちよりそっちの方がいいのか?』

『そういうつもりで言ったんじゃない』

 責めてしまいそうになりながら、本当はわかっていた。どちらがいいという問題ではなく、日奈乃はおそらく遠慮しているんだ。

 どんなに気を使わなくていいと言っても、そこで素直に甘えたり頼ったりできる性格じゃない。俺はよく知っているんだ。ひとりで抱えこんで自分で解決しようとする。

『――いつもそうなんだ、遠慮してばかりで……だからあいつをちゃんと支える相手に託したい』

 武志さんの言葉が頭をよぎる。

 あのときは、彼にはっきりと答えを示せなかったが、俺の心はとっくに決まっている。

『日奈乃、結婚しよう』

 実家に着いて車を停め、俺は日奈乃の顔を見てはっきりと告げた。大きな目をこれでもかというほど見開き、固まっている彼女に、理路整然と語っていく。

 もっと感情に訴えて自分の気持ちを伝えるべきなのかもしれない。けれどこのときばかりは、日奈乃から結婚の承諾を得るのに必死だった。

『なにそれ、稀一くん、優しすぎだよ。そんなふうに言われたら……私、断れないよ』

 断れない言い回しをした自覚はある。結局俺は、日奈乃が弱っているときにつけ込んで、強引に結婚を了承させた。

 日奈乃の気持ちを一番大事にしようと思っていたのに現実は真逆で、良心の呵責と彼女を手に入れた安心感に揺れていた。
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