エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
『本当、稀一くんは昔から変わらないね』

 その顔はどこかつらそうにも見えた。日奈乃には笑っていてほしい。

『そうか、なら俺になにかあったら日奈乃を頼む』

 あのとき、武志さんの申し出に素直に〝はい〟と答えておくべきだったのか。

 罪悪感にも似た気持ちに支配されそうになるのを振り払い、改めて決意する。

 どっちみち今は自分の気持ちよりも、日奈乃が少しでも心穏やかにいられるよう支えるのが最優先だ。自分たちの関係を変えるのは今じゃない。

 そう心に誓ったにもかかわらず、数日後に俺はあっさりと翻す行動を取ることになった。

『稀一くん、私明日から従兄のところでお世話になろうと思うの』

 病院に向かった日奈乃を迎えに行き、実家に帰ろうとしたときだった。前触れもない彼女の発言に耳を疑ったのは。

『なぜ?』

 運転していたので前を向いたままだったが、自分でも想像以上に冷たい声になってしまった。日奈乃も驚いたのか、言葉を迷っているのが伝わってくる。

『なぜって……。いくら幼い頃から付き合いがあるとはいえ、他人である間宮家にこのままお世話になり続けるのは申し訳なくて。従兄のところでお世話になるのを本人はもちろん伯母さんにも勧められて……』

『余計な気を回す必要はない。父さんも母さんも武志さんを心配しているし、ひなの力になりたいんだ』

 苛立ちが隠せず、つい早口で捲し立ててしまう。日奈乃が、俺がそばにいるより彼の方に行くと選んだことに、少なからずショックを受ける。
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