エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
『この部屋、変わってないな』

 部屋の中を一瞥した彼が感想を漏らしたので私はどう捉えるべきか悩んだ。あまり模様替えをしないタイプだし物も長持ちさせる方なのであまり買い替えない。

 部屋全体、白を基調に淡いピンク色をアクセントにしたフェミニン系のテイストにしている。母の好みが入っているものの私も気に入っていた。

『子どもっぽいかな?』

 つい彼との差を意識して卑屈めいた聞き方をしてしまう。しかし稀一くんは穏やかに微笑んだ。

『いいや、ひならしいなと思って』

 ああ、だめだ。諦めなきゃって思っていたのに彼を前にするとそんな決意はあっさりと揺らぐ。

 私は唇をぎゅっと噛みしめ、わざと彼から視線をはずし他愛ない話を振った。

『稀一くんはどうして弁護士になろうと思ったの?』

 高校二年生で進路の話題が度々出るのもあり、彼に尋ねる。するとどういうわけか、稀一くんはかすかに驚いた顔になった。

『父親の影響だよ』

 短い回答に私はすぐに食い下がる。

『でも、稀一くん自身が弁護士を目座す気持ちがあるからでしょ?』

 稀一くんのお父さんは息子に跡を継げ!というタイプの人でもないし。

 なにかを期待しているわけではないものの稀一くんは周りに流されるタイプではなく自分で考えて行動する人だ。

 純粋に彼の言葉を待っていると、ややあって稀一くんは照れくさそうに切り出す。

『……正しい知識を身につけて、困っている人を助けたいと思ったんだ』

『うん。わかる。稀一くん、昔から誰にでも優しくて私が困っていたらいつも助けてくれたよね』

 私は笑顔で答えた。確信を持って言えるのは、忘れられない思い出があるからだ。
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